20130319

黒死病─ペストの中世史

やはりペストに嵌まってしまった。
科学・医学ジャーナリスト、ジョン・ケリーの本だ。

この作者の本はもっと読みたいのだが、今のところこの本しか翻訳されていない。

中世ヨーロッパのペストに関しては、多くの本を読んで来た。
ひととおりの知識は持っているつもりでいる。

にもかかわらず、一気に読み切ってしまった。

面白かった。

良い読書体験が出来たと思っている。
作者であるジョン・ケリーを知っただけでも価値がある。

大量の文献を読み込み、読み解く技量には優れたものを感じるが、それらをまとめ上げ、ひとつの「物語」にしてゆく力量に凄さを感じた。勝れた読み物になっている。

著者は最初、中世ヨーロッパを採り上げる心算はなかったようだ。

前著『Three on the Edge』は実験薬について書いたようだが、その執筆に当たってパンデミックの威力を垣間見、一般的な意味での疫病に興味を抱いたのだという。

前著の評判もなかなかなので是非読んでみたい。

本書の扉にはヨーロッパの地図が載せられている。歴史物はどれもそうなのだが、地理的な位置関係の把握が出来るか否かで、理解度が全く異なってくる。地図をコピーするなりして、常に参照出来る態勢を造っておいた方が、この本を楽しむ事が出来る。


この本で得た知識としては、ペストの発生源として知られていながら、従来余り採り上げられることがなかった中世の中国・インドの様子を垣間見ることが出来たことだ。


本書は基本的に中世ヨーロッパの黒死病は腺ペストであるという立場を取っているが、議論として、黒死病はペストではないとする立場もある事を紹介している。

著者紹介には次回作について触れられていた。

次作はアイルランドのジャガイモ飢饉をテーマにした作品を予定しているようだ。

この作者とは話が合いそうだ。

ペストもそうだが、ジャガイモの歴史も、私にとっては重要なテーマの一つなのだ。

例えば
いも -1. Introduction
いも-2
をお読み下さると、その辺りはご理解頂けると思う。

中世ヨーロッパのペストについては、この本だけでも十分な知識を付けることが出来る。
しかし私は、ペストのパンデミックが中世ヨーロッパを終焉に導いたとする史観を植え付けてくれたという意味で、クラウス・ベルクドルト著『ヨーロッパの黒死病─大ペストと中世ヨーロッパの終焉』を紹介しておきたい。

パンデミックがどの様に拡がっていったのかを俯瞰出来る意味でも名著だと思う。

古書にはなってしまうが、まだ入手可能なようだ。

今回調べてみて、中世ヨーロッパのペストについての本が軒並み絶版になっていることに驚いた。

勿体ないと思う。

とても面白い分野なのだ。

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