後4か月以上あるが、この本は今年読んだ中で、ピカイチのルポということになるだろう。
著者ジャン=ピエール・フィリユは中東現代史を専攻する歴史学者である。このアイデンティティが自らをガザの地に身を置こうと誘(いざな)ったのだろうが、それを実際にやるのとやらないのとでは、天と地の差がある。彼は身を置いた。
その第一印象は冒頭のルポ「何一つ」に端的に表現されている。
私がガザで目撃し経験したものにとって、まえもって心の準備に役立つものは何一つとしてなかった。
その後、筆者は畳み掛けるように何一つを繰り返す。
筆者は歴史学者である。現場を訪れる前に、心の準備をし、事態を予想する想像力は並の人以上に鍛えられている筈である。
だがガザという地は、その想像力を簡単に跳ね除けてしまう過酷な地であった。
前以て想像していた心の準備は、ガザという現実の前では、余りにも無力だった。
彼がガザに身を置いたのは34日間。それは一瞬一瞬がまさに死と隣り合わせの34日だった。実際、ガザに身を置いて殺された医者・ジャーナリストは何人に上るのだろうか?
彼が命懸けで目撃したのは、同じく命懸けで、しかし1か月というような短いスパンではなく暮らすガザの人々の生活であり、生き様だった。
彼らパレスチナ人は生きる場も生存する環境も根こそぎ奪われ、一瞬も気を緩める事すら許されずに生きている。そして毎日子どもが、大人が殺されて行く。
うんざりだ!
その声を、世界中の人たちはもっと大きく張り上げた方がいい。
本を読んでいて、この箇所は引用したいと、思う事は多々あるが、この本に関しては、引用するのであれば、そして許されるのであれば、全文を引用したいという欲求に駆られた。
ジャン=ピエール・フィリユの著したルポは、ひと月余りという限られた期間のルポだが、それだけに、極めて密度の高いルポであり、重要な証言であると言えるだろう。
著者に感謝したい。良くぞ生きて帰って来て下さった。そして、良くぞ書いて下さったと。









