M.フーコーが従来の権力観を転倒させて唱えた生の政治学。それを更に転倒させて死の政治学と題したのは、現在世界中に死が充満しているという現実認識があるからだろう。
実際パレスチナやウクライナの例を引くまでもなく、世界の権力は、人民の死を軽々と増加させてしまっている。
著者アシル・ンベンベは、その現実認識を、フーコーのみならず、古今の哲学者の論考の延長上に、整合的に位置付ける事に成功している。
本書は前半二章を論理展開の助走に宛て、第三章から本格的なネクロポリティクスの論述が始まる構成を取っている。
著者の哲学・政治学の文献の読み込みは深く広く、そして徹底している。従来の論考のエッセンスを自在に取り込み、駆使してゆく手法は、その要求するレベルが高く、読解にかなり困難を感じた。
だが、決してペダンチックにはなっていない。著者の展開する論理を、噛み砕き身を任せる事で、本書は今迄見えていなかった世界の現実の全体像を、鮮やかに描き出す事に成功している。
著者は各章の冒頭に、それまで述べて来た論理の要約を、一言で付す。これはそれ迄の読書の理解を確認する事を可能にするだけでなく、それ以降の論理展開に追い付いて行く上で大きな手助けになった。
だが第五章をほぼ境界として、それ迄緻密な展開を見せていた論理に代わり、文学的な表現が多くなって来るのは何故なのだろうか?
著者が自らの論理の範疇を越える現実認識を、本書に盛り込む為の手法なのかも知れないが、その切り替えに少々苦慮させられた。









