熊谷誠人『詩人茨木のり子の誕生─西尾の少女の物語』。
よく調べたものだ。そしてよく考え抜かれている。
この本を読んで、今年が茨木のり子の生誕100年に当たる事を知った。それ程昔の人だったのかと、改めてびっくりする。彼女の言語感覚は、現代人と殆ど変わらない。若い。
しかし「わたしが一番きれいだったとき」などの作品を思い浮かべると、その時代に納得が行く。
茨木のり子の伝記としては、後藤正治の『清冽 詩人茨木のり子の肖像』という労作がある。著者もこれには一目置いており、これを越える聞き取りは難しいと認めている。その上で、それと比べて、本書にはどの様な特徴があるのかを、冒頭で解説している。
【本書の特徴1】詩の背後にある原体験を読み解く
【本書の特徴2】詩人茨木のり子が誕生するまでの自己形成の物語
【本書の特徴3】人々を戦争に巻き込んだ昭和の時代を見つめる
本書は、各章の冒頭に茨木のり子の詩を掲げ、それについて、背景、原体験、時代を深く語ってゆく構成を採っている。
本全体が、詩の解説になっていると言って良い。
よほど茨木のり子がお好きなのだろう。その読解は、深く、その視野は広い。
本書を読んで、私は初めて、茨木のり子が若い頃、軍国少女だったと言う事実を教えられた。
幼い頃から成績優秀で人格高潔。常にクラスのトップに君臨して来た彼女が、戦争という時代に巻き込まれた時、それに対しても優等生であったと言う訳だ。
後に現代詩の長女と呼ばれた彼女は、常に時代の長女でもあったのだろう。
その彼女の詩を、細やかな手付きで解き明かす本書の姿勢は、従来の茨木のり子像とは、一味も二味も違う彼女の側面を、鮮明に描き出す事に成功しており、冒頭で解説している本書の特徴は、正に看板に偽り無しと言った所だ。
それらの事を念頭に置いて、彼女の詩を読み返す時、今迄とは全く異なった輝きが、彼女の詩から発している事に気付く。
私は、若い頃から茨木のり子の詩を読んで来たが、本書を読み、その読みが実に浅かった事を認めざるを得ない。
本書を読み、茨木のり子理解は格段に深まった。
著者の熊谷誠人さんには、心から感謝する。







