いきなりモルダヴァイトである。
私は地質学を専攻した。その私が知らない鉱物だ。
尤も私の地質学は鉱物が専門ではない。私の専門は砂や礫(小石)である。だが、それでも一通りの地質調査は必須であり、鉱物学や岩石学も履修した。素人より知識はあるという自負はあった。
趣味の人たちの知識量を舐めていた訳ではない。大したものがある。例えば恐竜についてなどは、好きな小学生の知識にとんと追い付かない。
だが、素人の知識は、最初のうちは見知った鉱物名から始まるものと考えていた。
徳井いつこさんのエセーは、子どもの頃の思い出から、いきなりモルダヴァイトに飛んだ。
どうやらテクタイト(隕石が地球に激突した時に出来る天然ガラス)の一種らしい。旧チェコスロバキアのモルダウ地方で採れる事からこの名が付いたと言う。
このモルダヴァイト、確かに魅力的なテクタイトの様だ。
普通テクタイトは黒色だ。だがこのモルダヴァイトだけは、地球上で唯一緑色を呈しているとの事だった。
いきなりのモルダヴァイトの衝撃から、私は一気にこの本に夢中になった。
人間と鉱物がいかに関わり合いを持って来たかが書かれている。
そうなのだ。
専門家になってしまって、つい忘れてしまうのだが、私も子どもの頃、石が持つ何とも言えない感触や、視覚的魅力など、石自身が醸す「いい感じ」に魅せられ、そこから石に夢中になったのだ。
話はそこから、石に魅せられた著名人に向かう。ゲーテや宮沢賢治、そしてカイヨワは知っていたが、ユングが石から強いインスピレーションを得ていた事は知らなかった。
徳井いつこさんは、それらをしっとりした透明感のある語り口で、そっと私に語り掛けてくれる。お蔭で私は、石が趣味だった遠い昔の自分の感覚を取り戻し、しみじみとした想いに浸る事が出来た。あれから、もうとてつもなく遠いところまで、私は旅をしてしまった。だが、あの頃の情熱は、いまだに私の身体の中心で燃えている。
この本を読んで、私はその事を再確認出来た。
尚、本書は、『夢見る石』と改題され、最近新装出版されている。そちらの題名の方が、入手し易いかも知れない。








