とことん調べ尽くされている。
人類は古代から花に様々な寓意を込めて来た。それは明らかな事。だがその実態はどうだったかは意外に明らかにされて来なかった。
著者若桑みどりは豊富な文献と作品の画像を駆使して、薔薇を中心として花の持つ寓意の実際を、個人、時代、そして洋の東西を越えて人類に共有されて来た経緯として見事に纏め上げている。
それは薔薇と聖母の深く長い関係の歴史を紐解くところから始まり、グロテスクの系譜に立ち寄る事でその幅を大きく拡げ、花の復権に至る意外性に満ちた一大精神史である事が、しっかりした裏付けを伴った形で示されている。
SNSなどではしばしば非現実的な、見通しの甘い、希望的観測に満ちた見解を「お花畑」と揶揄する事がある。だが、人類の美術史などは、まさにそのお花畑を維持する為の労苦の連続であったのであり、実際にお花畑を維持する時に費やされる手間暇は、ちょっと考えただけでも目が回る。
人類は、薔薇を始めとするそのお花畑に、美しさはもとより極めて困難な愛と生命の寓意・象徴を込めて表現して来たのだ。
その実現に、意識が遠のく様な長い時間が費やされて来た事実は、注釈に並べられた幾多の美術論文献のリストを見れば、すぐに理解出来るだろう。
惜しむらくは本文中に引用されている数多くの絵画の写真がモノクロである事だ。口絵に、代表的な作品の幾つかが、カラーで示されているが、これだけでは勿体無い。
図に付けられたキャプションを基に、Webで検索する事で、殆どの作品をカラーで見る事が出来たが、この手法は誰しもに薦められるものではない。とてつもなく時間を必要とする作業だったからだ。
しかし、ここに薔薇の、そして蓮の、菊のイコンが示す意味の全体像が明らかにされた事は、それが持つ意味を振り返っても途方もなく大きい。
もはや薔薇を迂闊に描く訳にも行かなくなった。









