7日間ブックカバーチャレンジ6日目。
その本は、私がその存在に気付く前から、私の自宅にあった。
少年の頃私は休みの日には、河原で石を拾い集め、捕虫網を持って駆け回る、根からの理科少年だった。そんな私にも思春期が訪れる。文学に目覚めたのだ。そうさせた人物はふたりいる。ひとりはヘルマン・ヘッセ。今日はもうひとりの石森延男さんを採り上げる。
石森延男と言えば『コタンの口笛』なのだろうが、それ以前に読んだ『バンのみやげ話』の印象が、私には思い出深い。
そうは言っても『コタンの口笛』も何度となく読んだ。「あらしの歌」「光の歌」と2巻に分かれた薄からぬあの本を、主人公の運命に我が事のように翻弄されながらも、読み終えるのが勿体なくて、本の先の方を押さえながら読んでいた事を覚えている。
『コタンの口笛』でそれなのだから『バンのみやげ話』は一体何度読んだのだろうか?
予防注射を打った腕をさすりながら空港を急ぐシーンに始まり、バンが連れて行ってくれるヨーロッパやアラブの国々に思いを馳せながら、私は夢中になってこの本を読んだ。
今は文庫本しか持っていないが、出来れば挿絵のある単行本で、この本を読みたい。鉛筆で描かれたそれらの挿絵は、石森延男さんの文章と見事なハーモニーを奏で、それを読む私の想像力を、縦横無尽に掻き立ててくれた。
見た事もない国々の、聞いたこともない話を石森延男さんは優しく、私に語りかけてくれた。私はこれも生まれる前から自宅にあった百科事典で、それらの国々を調べ、更に空想の翼を拡げた。
私が初めて主体的にする、学ぶという行為だった。
それは、私が人生で初めて持った憧れという感情だったのかも知れない。
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