ディーン・フォーク『植物時代─人類進化の種が蒔かれたとき』
副題がなければ、何の事か分からないだろう。
大抵の人類史の教科書は石器時代から始まっている。だが石器時代が始まったのはおよそ350万年前の事であり、チンパンジーとヒト族の分岐が始まったのはおよそ650万年前の事とされている。石器時代の前に途方もなく長い歴史があったのだ。
筆者は石器時代(The stone age)の前に植物由来の道具を使用していた植物時代(The botanic age)があったと主張し、その呼称を提唱している。
本書はその植物時代とはどの様な時代であったかを推測し、直立歩行、言語の使用が何故、どの様に始まったのかをまとめている。
しかし気を付けねばならないのは、筆者が本書の冒頭で断っている様に、本書には多くの推測が含まれている。それはこの長い時代区分には、道具に関する考古学的記録が殆どなく、ヒト族の化石記録もまばらである事に起因する。
仮説と呼ぶのも怪しい。作業仮説と言ったところだろう。
だが筆者はその限りある証拠を可能な限り掻き集め、大胆に憶測する事で、魅力的な作業仮説を構築する事に成功している。
一昔前とは違い、現在は多くの動物が、道具を使うことが認められている。恐らくヒト族が使用した最初の道具も、チンパンジーが用いる釣り枝の様なものだったのだろう。だが、非ヒト族の類人猿が用いる道具と、ヒト族が用いる道具との間には、決定的な違いがある。ヒト族の道具は「意図的に」作成されたものなのだ。
その作成された道具の起源を、著者は巣に求める。
簡単な巣であれば、熊だって作る。
ヒト族の巣は最初は樹上に枝、葉、蔓、小枝を使って編んでいたものと推測出来る。その習性は、優れた編み込み技術だけでなく、寝床が落下を防ぐという無意識の感覚(直感的な素朴物理学)によっても支えられていた。樹上の巣はヒト族のお650万年の歴史の前半に生まれた。それはベビースリングなどの他の植物学的発明の基礎になった。その後ヒト族の性別による体格差が決定的な時代を作る。恐らく雌や子どもとは体格が大きかった雄のヒト族は樹を降り、地上に巣を作って眠る様になった。完全な直立二足歩行の完成である。
ヒト族の女性の体毛は、非ヒト族の類人猿と比較して体毛が少なく、赤ちゃんの握力も小さい。その事から赤ちゃんの落下、もしくは赤ちゃんを地上に「置く」機会が増えた。
著者はそこに言語の発生の契機があったと考える。
本書の特徴の一つに、人類史の発展の契機に関わるジェンダー差が少なかったと考える姿勢がある。これは特筆すべき特徴だと私は考える。恐らく、従来の見方より、本書の姿勢の方が事実を精確に反映している。
他にも本書には、魅力的な作業仮説が数多く提唱されている。確実でないにしろ、それらは人類史を構築する上で、貴重な提言になると、私は確信する。


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