20260707

文化の脱走兵

慌てて読んでしまった自覚があったので、2度読み返した。

1回目は、引用されている詩が印象に残ったものの、本文は殆ど味わえずに終えてしまった。

今回2度目で、ようやく落ち着いて読む事が出来た。


実直な方である。

その実直さがロシア文学に向いているのかも知れない。

表裏がなく、ブレがない。

その姿勢はどこかレフ・トルストイに通じるものがある。このエセー集では、それに加えて文章に力みがなく、奈倉さん本来の人柄が滲み出ている様に思えた。この様な姿勢で文章を書いたのは、このエセー集が初めてだと仰っておられた。

ご存知の方も多いだろうが、ロシアに留学しておられた。その時期にロシアとウクライナの戦争があった。

戦争に最も近付いた日本人のひとりであろう。

本書に収められたエセーにも、その戦争を扱った文章が多い。

戦争は、丹念に築き上げて来た、留学生たちの人間関係を、一瞬で滅茶苦茶に破壊してしまう。その事実を、私はこのエセー集でやっと気付かされた。

文化は脱走するのだと言う。戦争は文化も、ずたずたに破壊してしまう。戦争と文化は相入れない。それならば、戦争から脱走するのも無理はない。

ヨーロッパには、脱走兵の碑が幾つも存在するのだと言う。その発想すら、日本には無い。だがあって然るべき姿勢だ。

その姿勢を、恐らく日本で初めてこのエセー集は伝えてくれた。

その意味でも、貴重な記録だ。