かつて、今から15年前まで25年間発刊し続けられた地域雑誌『谷根千』があった。
本書は、その『谷根千』の編集後記だけを集めて作られた本である。
雑誌の題名は谷中・根津・千駄木の頭の文字を連ねたもの。東京の下町にまだ残っている(逆に言えば失われつつある)自然・建築物・史跡・暮らしぶり・手の芸・人情を、古老たちが生き残っているうちに記録しておかねばという、一種の危機感から刊行された下町のタウン誌だ。
下町情緒あふれる表紙に、内容も毎回良く練られていて、上質。私は大学の生協などで、未読の巻を見つけてはそれを入手するのを習いとしていた。
同じ趣向を持っていた方も多いと思う。
中綴じで製本された、ごく薄い雑誌。今回編集後記をまとめて読んでみて、あの薄い雑誌のどこにこれ程の編集後記を納めるスペースがあったのかと感じるほど、ボリュームのある文章が並んでいる。
どれだけ人気のあった雑誌とは言え、その編集後記だけを集めた本は珍しいと思う。それが本として成立するだけ、『谷根千』は愛された雑誌だったと感じる。
編集後記には、本文に含ませる事が出来なかった、書きたかった事が滲み出る。
『谷根千の編集後記』にも、雑誌が発刊された時の時事問題、それに対する編者の思いが綴られ、エセー集と呼んでも遜色のない内容になっている。
それは震災あり、オリンピックあり、戦争ありで、『谷根千』が、それぞれの時代を敏感に捉えつつ編まれた雑誌であった事が手に取るように分かる。
びっくりしたのは、編集後記を読んでいると、その号の雑誌全体の内容が蘇って来た事だ。私としては、暇つぶしに漫然と『谷根千』を読んでいたと思っていたのだが、意外と集中して本文を読んでいたらしい。
本棚の片隅には、当時集めた『谷根千』のバックナンバーが、15cm程の幅を占めて並んでいる。好評だった号や記事を集めた『ベストオブ谷根千』も持っている。
懐かしくなって、私はそれらを取り出し、拾い読みしてみた。私の身体を打ち倒すように、若い時代の記憶が、どっと押し寄せて来た。
今更ながら、『谷根千』は、私の本郷時代を象徴する、大きな存在だった事が分かる。
本誌を編集していた森まゆみ、山﨑範子、仰木ひろみの各氏には、感謝の仕様がない。
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