主に竹にフォーカスし、植物を土木工学者の眼で見たらどう見えるか?それを主題にしている。
身の回りに、竹製品は多い。溢れかえっているとすら言える。それだけ竹は「使える」素材だと言う事だろう。
だが、その竹の「使い易さ」とは一体なんだろうか?その事については、今迄余り深く考えた事が無かった。
動物は周辺の環境が嫌になれば、移動して場所を変える事が出来る。だが植物は一度根を張ってしまえばそこの環境に順応せざるを得ない。
その点に目を付けて、筆者は動物を「機械」構造物。植物を「土木」構造物と思っていると言う。動力があり、陸や空を移動する自動車や飛行機は機械構造物であるし、その場から決して動くことのない橋やトンネルは土木構造物だ。
そうした土木工学者の視点から見ると、竹を始めとする、植物は、その場に適応する為に、非常に合理的な形状を持っている事が分かる。
著者はその合理性を、幾つかの数式を交えて、理系の眼で考察する。
例えば、竹の維管束は、外側に密に分布しているが、この構造は、竹自身が、自らの身体を支える上で、実に見事な配列である事が分かる。
鉄筋コンクリートの様に二種類以上の異なる材料を組み合わせた構造を「複合構造」と呼ぶが、竹は正にその複合構造物以外の何物でもないのだ。
そして著者の眼は、竹を乗り越えて、他の植物にも向かう。
そこに見出せるのは、光を求めて身体を大きくする事に適応した、各種植物の実に見事な合理性だ。
生物の合理的な形態を模倣し、様々な形で応用するという、所謂「生物形態模倣」をバイオミメティックスと呼ぶ。私はその事を、この本から学んだが、それは、古くから様々な人工物に用いられてきた手法だろう。
そればかりではなく、本書から学んだ基本的な概念は多い。
断面2次モーメントなどは、今迄、聞いた事もない概念であり、それを理解するのには、多少の労力を必要としたが、著者の分かり易い説明によって、腑に落ちる所迄理解する事が出来た。
ちょっとその気になって見回せば、世界は謎に満ち溢れている。そしてその謎は、少しの工夫で、合理的に理解する事が出来る。
その事は、いつもの事ながら、私にとっては大きな驚きに満ちている。
本書と出会う事によって、世界の植物はそれぞれに合理的な形態を保っている事を知った。またひとつ、世界が新しく見えて来た。
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