千葉聡『招かれた天敵─生物多様性が生んだ夢と罠』。
兎にも角にも著者の知識量の多さに圧倒された。薄からぬ本のどのページにも、多くの情報がみっしりと詰め込まれている。
レイチェル・カーソンはその著書『沈黙の春』で殺虫剤の大量散布により化学薬品で汚染され、命の賑わいが失われた世界の恐ろしさを、読者の脳裏に鮮烈に焼き付けた。
そこで登場したのは、天敵の導入による、生物学的な駆除法だった。問題はそれで解決される筈だった。当初の目論見では。
だが、現実にはその生物学的駆除法もまた、多くの困難や不都合を産み出してしまった。その事が、豊富な実例を引き合いに出しながら、丁寧に解き明かされている。
地球上の多様な生物たちは、長い地質学的時間を掛けて、その地に根付いている。だが、人間は欲から、その地質学的時間を無視して、遠い海外から特定の生物を自分たちのテリトリーに移植する。
問題が起こらない訳はない。
その問題を解決する為に、人はまた無茶をする。
この本にも書かれているが、成功は失敗の源とすら言えるのだ。物事は、最初のうちは巧く行っている様に見えるのだ。だが、長い目で見ると、その中に取り返しのつかない問題が潜んでいる。
その、失敗の実例の多くが、この本に記載されている。根本的な解決法はあるのか?それは、この本では明らかにされない。
現在、世界経済はグローバリゼーションの波に翻弄されている。
多くの生物種が、遠い海外を挟んで、頻繁にやりとりされている。その為の解決法も、多く提唱されているが、この本にある通り、抜本的な解決法ではない。
だが、この本でも、農業は基本的には可能であり、失敗は成功の源である事が記されている。要は私たちはまだ、生物学を少ししか知っていないという事なのだ。
私たちは多くの生物に依存して、存在している。ならばその生物について、もっと基本的な知識を獲得しなければ、ならない。
その基本的な作業は、まだ、始まったばかりだ。
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