仲直りの理(ことわり)と言っても、仲直りのハウツー本ではない。では何が書いてあるのかと言うと、本書の結論は「はじめに」で簡潔にまとめられている。結論だけを知りたいのであれば「はじめに」だけを読めば足りる。それは
私たちの祖先でいざこざの後にすぐ仲直りできる者と、そうでない者がいたら、仲直りできる者の方が適応的だったので、私たちは仲直りする心の働きをもっている
と言う事だ。私たちは進化の途上で、仲直りする心の働きを獲得したと言う事だろう。
本書はこの結論を様々な実験結果やメタ分析を通して、実証して行く事を目的としている。結論は至って簡単。だがその実証はなかなかにして困難だ。本書を理解して行くのに、私はかなりの時間を必要とした。
それは本書が囚人のジレンマを始めとするゲーム理論や、様々な図表数式をふんだんに用いて書かれている為であり、学生時代から理系の教養を身につけておいて本当に良かったと、しみじみと感じさせられた。
進化とあるので、本書は最初にヒト以外の生き物の仲直りの実例を紹介する所から始まっている。その対象は霊長類は勿論の事、鳥類や魚類にも及んでいる。
この様に様々な生き物に仲直りの実例がある事から、筆者は仲直りの心の動きは収斂進化であると意味付けている。
心の働きも進化するのだ。
心の働きと言ってもそれは、煎じ詰めれば脳機能の事であり、そう考えれば進化して当然なのだが、改めてその事を指摘されると、私には少々意外な気がした。
その上で筆者は価値ある関係仮説や不確実性低減仮説など、様々な仮説を用いて仲直りの機能とメカニズムを説明して行く。
と言っても本書は各章末にまとめが付いており、更に本文で触れられた概念や理論を簡潔にまとめた8つのコラムから成り立っており、丁寧に読んでゆけば理解できる様に書かれている。
全ての場合に仲直りする事は報われる訳ではないが、大極的に見れば、赦しは理に叶っており、お人好しに見られるかもしれないが、赦す事は適応的である事が実証されているのは、何となく救われる思いだった。
この様に書くと仲直りは簡単な事に思えてくるが、それをいざ実行に移そうとすると、現実的にはかなり困難を伴う行動だ。だがそれ故に、常に赦しの姿勢を保っていようと言う気にさせてくれた。
本書を読む事は、充分に価値がある。
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