藤井一至『大地の五億年─せめぎあう土と生き物たち』。
プレパラートを顕微鏡で覗き、僅かにピントをずらしてみる。そうすると同じプレパラートとは思えない程、多様な、変化に富んだ、思いがけない景色に出逢うことが出来る。
この本を読んで、同じような目眩き思いを体験出来た。
見ているのは地球であり、景色であり、日常である。けれど「土」にピントを合わせて、それらを観察している。
驚いた。
同じ日常が、これほど迄にかと思う程、普段とは違った景色に見えて来る。
大学で、土壌学の講座は受講していた。
なので、土壌学の基礎知識は、ある程度持っていた。だが、この本で体験出来た、土のミラクルワールドは、ついぞ体験した事のない魅力に溢れていた。
土は地球にしかない。
それは確かな、単純な事実。
だが、それを改めて大上段から振り下ろされるように語られると、今迄気付いていなかった事実を突き付けられているような、新鮮な驚きがあった。
その地球ですら、5億年前迄は、土は存在しなかったのだ。
山ばかり歩いて来た。
だが、私の興味の対象にあったのは、まず岩石であり、次にそこで生きる動植物たちであった。土は、岩石を隠してしまう、むしろ邪魔な存在であり、私は、そして私たち地質屋はそれをはぎ取ってしまいたいという欲求すら抱いていた。
土壌学も履修していながら、私は土に目を向ける事もなく、それを無視して、山を歩いていたのだ。
なので、映画や写真で、プリンス・エドワード島の赤い土を見ても、別段それを不思議にも思わず、当たり前の事として、見過ごしていた。
著者はそれを奇妙な事と喝破し、プレート・テクトニクスの仕業である事を見抜く。
本書には、かくの如く言われてみれば当たり前だが、今迄考えても見なかった事実に溢れかえっている。
読み終えて、最初に私が感じたのは、著者が、この本では、まだ語り切れなかった多くの事柄を抱えているのだろうな…という事だった。
それを裏付けるように、著者はその後も何冊も土壌の本を物にしている。
この本は、私の土に対する好奇心に、見事にヒットした。著者の他の本も、これからどんどん読んでゆく心算だ。


0 件のコメント:
コメントを投稿