20211003

事実婚と夫婦別姓の社会学

夫婦が必ず同じ姓を名乗らなければならないと法律で規定しているのは、世界でも日本だけとなった。国連女性差別撤廃委員会は2003年、09年、16年の3度に渡って、日本政府に対して制度を是正するように勧告を行なって来たが、政府はこれに応じていない。

この法律が存在する為に、日本で夫婦が別姓を名乗る事を選択した場合、必然的に事実婚の形態を取らざるを得ないのが現状だ。

その為、事実婚と夫婦別姓は固くリンクされたものになっている。


本書は選択制夫婦別姓制実現への足掛かりとする為に書かれている。

事実婚という言葉が人口に膾炙するようになったのは1980年代後半になってからだ。だが事実婚という言葉はそれほど新しい言葉ではない。遅くとも明治期には、事実婚の問題が、政治の場で議論されている。

だが、この本で私は知ったが、当時の事実婚の議論は、保守派が事実婚を支持し、リベラル派がそれに反対するという、現在とは逆の構図になっていた。

明治期の民法編纂事業は明治23年(1890年)に一度結実する(いわゆる旧民法)。だが明治26(1893)年の第三次帝国議会において葬られる事になり、その内容を大きく変え、明治31(1898)年に完成をみる。旧民法は「旧慣の尊重」という立場を取っており、事実婚主義の特質を強く有した民法であった。それに対し、その後の明治31年に正式に制定された民法では、梅謙次郎のもとで厳格な法律婚主義が採用されることになった。

戦前日本で事実婚が多かったのは、法知識が十分に浸透していなかったこともあるが、家族制度に関連した規範や慣行により、正式な法律婚から締め出された女性が多く存在した事が主な要因である。

もう一つの理由は、「妾」が多かったことである。

この状態は戦後に至るまで続いた。

また、法律婚主義の定着を「民主化」の指標と捉える視座は1970年代までは強固に維持されていた。

事実婚の問題が改めて発見され、別の視点から語られるようになるのは、高度成長期が終わり、女性の就業率が上昇した1980年代頃からであった。

姓を変える事によって被る不利益が、女性にのみ課せられている現状への不満が噴出したのだ。

この本では、事実婚を選択した、或いは選択していた11組の夫婦に対して聞き取り調査を実行している。

その調査で印象的なのは、事実婚という言葉では一括りに出来ない、事実婚の多様性だ。実に様々な形態が存在している。

だが、彼らが結婚という形態に拘りを持っている事は驚かされた。

事実婚という言葉があるのでそれを使っているが、実は自らを語る言葉が存在しない。だが明らかに同棲や内縁という言葉では表されないと一様に語る。事実婚による実践を、法律婚と同等或いはそれ以上の家族生活として位置付けている。

この本によって提起されている問題は、深くそして広い。それは家族というものの多様化を視座に含めつつ、議論されてゆかねばならない問題だろう。

教えられる事の多い本だった。

0 件のコメント: