20210903

フロイト、性と愛について語る

 『精神分析学入門』を紐解くまでもなく、フロイトは精神分析を科学と考えて来た。また、科学的である事に、生涯を掛けて拘ってきた人物でもある。だが、フロイトの精神分析とは科学なのだろうか?または、フロイトが考えていた科学とは、どういう物だったのだろうか?本書を読んで、その事が気に掛かった。


本書はフロイトの思想の中でも中核をなす、性と愛についての論考をまとめたものだ。今迄、分散していた概念が、集中して語られているので、フロイトを理解する上で、大いに助けられた。

中でも「解剖学的な性差の心的な帰結」は、今迄曖昧だった。フロイトのエディプス・コンプレックスの考えを、どの様に女性に敷衍しているのかが分かり、大変参考になった。

人間はその人生の多くを、他人との関係性の中で、過ごす。その時に中核となるのは、家庭生活の中で繰り広げられる、父や母、または兄弟との軋轢だろう。そこで獲得してきた思想を核として、他の人たちとの関係を築いてゆく。

それ故に、愛情生活の心理学は、人がどのように生き、人と関係を結んでゆくかを考察する上で、重要な手掛かりを提供してくれる。

この本にはそれが、余す所なく書かれている。

なるほど取り上げられるテーマは、日常にありふれた事例とは大きく異なったものが多い。だが、その「異常な」事例は、日常に埋もれてしまいがちな精神生活の力動関係が、破綻を来した時、どのような事柄が起こるのかが目に見える形で現れている。フロイトが病的な事例を扱うのは、だからだろう。

それにしてもフロイトはなぜこれ程迄に性に拘ったのだろうか?その答えは、フロイトを精神分析して、診断してみないと分からないもののように思える。

フロイトの著作に続いて、巻末に付せられた、中山元さんの解説「フロイトの性愛論の文明論的な広がり」は、フロイトの文章の丁寧な解説として読めるが、この文章自体が、一個の独立した著作になっているとも言える。優れたフロイトの解説書になっている。

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