恐ろしい程高い密度を保った本である。進化生物学に関する情報が、この一冊の本の中に凝集されている。
加えて、図表や参考、コラムが充実しており、それを読み解くだけでもかなりの集中力と根気を必要とした。
本来ならばこの本を教科書にして、1年くらい掛けて解説付きでじっくりと取り組むべきなのだろうが、図書館から借りた本には返却期限がある。泣く泣く急ぎ足でざっと通読した。
しかし、急ぎ足で読めたのは、前にスティーヴン・ジェイ・グールドの『進化理論の構造」を読破しておいた事が大いに助けとなった。進化論の概要が頭に入っていたので、ゲノミクスに関する記述も恐れずに読む事が出来たのだ。
進化論の歴史から、無機物から原子生命体が形成されるメカニズム、生命の誕生、真核生物の出現、多細胞化と有性生殖の獲得、生物の陸上進出、エボデボ(進化発生生物学)と言ったトピックスを著者は手際良くまとめ、丁寧に解説している。しかもその内容が新しい。どのトピックも現在の生命科学の最先端を紹介していると言って良い。
今迄、曖昧だった概念がこの本によって明確な輪郭を与えられた事例も多い。原始生命体の発生と粘土鉱物の関係も、具体的に開設されており、やっと納得出来る科学理論として、私の中に定着させる事が出来た。
個人的には、動物の陸上進出のきっかけとして、オウムガイによる捕食圧が関係しているという解説には大いに納得するところがあった。
今迄生物の陸上進出は、シアノバクテリアや藻類の働きによって大気中に酸素が増え、それが宇宙線によって分解・合成されてオゾン層が形成されることで陸上に到達する紫外線が激減し、陸上も生物の生存が可能になったとする解説ばかりで、なぜ陸上化しようとしたのかの解説には全く出会っていなかったのだ。
この本で一通り進化生物学をゲノミクスによって解明するとどの様なストーリーになるかを学んだ後、巻末で進化重要語集として進化年代表や基礎的な用語の解説が纏められているのも嬉しい配慮だ。曖昧な理解だった事がこれではっきりと再確認出来た。
残念なのは充実した参考文献が最後に紹介されているのだが、それがどれもNatureやScienceといった科学雑誌や原著論文で、それを手に入れる環境に私がいない事だった。それが出来ればこの本はもっと深く読み込む事が出来るだろう。
だが、この本によって進化生物学やゲノミクスに関しては、かなりアップデートすることが出来た。充実した読書体験が出来たと思う。特にエボデボの進展によってもたらされた最新の成果を知る事が出来た事がとても嬉しい。
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