20200429

アーネンエルベ


読了迄に20日を要してしまった。
『SS先史遺産研究所アーネンエルベ─ナチスのアーリア帝国構想と狂気の学術』という本だ。

久し振りに浩瀚な本を読んだ。写真にあるように余裕で自立するのだ。その分厚さを察して欲しい。
しかし、時間が掛かったのはその厚さのせいだけではない。本の全てに渡って、細かく註釈が付けられ、それと本文との往復に、ひどく手間取った。


アーネンエルベという組織について、私はこの本を読むまで、全く知識がなかった。
ヒトラーの右腕とも言われるヒムラーが率いている。しかし、その全貌は余り知られていない。
ナチス親衛隊(SS)によるアーリア帝国建設の為の巨大シンクタンクだったらしい。目的はナチス世界観の学術的裏付けを確立する事にあった。明らかに怪しげだ。扱っていた分野は、インドゲルマン先史学、ルーン文字、紋章学、北欧神話、チベット探検、宇宙氷説、人種論、遺伝学、ダウジングロッド、秘密兵器開発、強制収容所での凄惨な高空・低温医学実験…。
学術と妄想が融合するとき狂気の科学の暴走がはじまる。

アーネンエルベ内の主導権争いも、熾烈を極めた。

この本にはそれらが、細部に至る迄、事細かく描かれている。

戦争が世界を支配するとき、学術はその目的の為に、徹底的に利用される。しかし学者は、いやいやそれに従うのではない。むしろ好機を得たとばかりに、主体的にそれに参加するのだ。
そしてその世界観が歪んでいるとき、学術も歪み、殆どオカルトの様相を呈し始める。そのふたつは共鳴し合い、どこ迄も暴走してゆく。

この現象は、ナチスドイツにのみ現れたものではあるまい。日本でも731部隊の人体実験に見られたように、同様の暴走があったのだ。そしてそれはいつどこでも起こり得る事だろう。

多くの科学者が、ルイセンコ学説に血道を上げたのは、それ程昔の話ではない。

人は集団になると暴走する。そうした癖を持っている。そうした傾向を認め、自分を例外扱いしないようにしないと、私たちはいつでも間違いを犯す。

そうした自分を自覚する時、アーネンエルベという巨大学術組織の全貌を描いた、この本は、自分を客観視する為のかけがえのない資料となるに違いない。貴重な記録だ。

手間取ったが良い本を読むことが出来た。

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