『あじさしの洲/骨王 小川国夫自選短篇集』
力みのない、奇を衒った表現も全くない、淡々とした日本語が綴られている。それでいながら、描かれている情景は鮮明で、独特の光沢を帯びている。
それが小川国夫の文学である。
私はこの本を読み始めて、一行目から、ぐいぐいと引き込まれる力を、感じざるを得なかった。
この本には、小川国夫が自ら選び抜いた、11の短篇が収められている。
どれがどれより優れているかとか、比較することは不可能だった。それぞれに、独自の魅力がある。
選ばれた作品はどれも、似通ったものはなかった。それぞれに独自の世界観を持ち、小川国夫という宇宙に散りばめられた星座の様に、輝いている。
ある作品には心中に引き込まれてゆく男女の情景が描かれ、ある作品には旧約聖書の世界が縦横無尽に展開されている。
しかし、読み終えて、作品のひとつひとつを振り返ると、そこには首尾一貫とした、小川国夫の色彩がある。そうした矛盾したような感想をなぜ抱くのか?いくら考えても、その謎は解けなかった。
作品に描かれているのは、人々と自然の織りなす情景であり、その中で繰り広げられる、登場人物たちの素朴な行為だ。
だが、私たちはそこから、登場人物たちの細やかな心理を、確かに読み取る事が出来るのだ。
それぞれの登場人物たちは、まるで旧知の親友であるかのように、最初から親しげにそこに存在している。
従って、私たちは登場人物の行為の意味やその必然性を、何の疑問もなく、理解することが出来る。
彼等はまた彼女等は私が経験をした事もない境遇を生き、行為する。私たちはそれを後追いする事で、自らもまたその境遇、行為を経験したような世界に浸る。
小川国夫は彼の作品を読む事で、読者の人生の幅を大きく拡げてしまうような力がある。
不思議な作家だ。


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