この本、デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』には、戦争のもうひとつの貌が描かれている。
兵士たちは英雄になって帰ってきたように見える。しかし目に見える身体的な損傷はなくとも「内部」が崩壊した兵士たちが大勢いる。妻たちは「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語る。
毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げている。自殺を企てた者はその10倍と言われている。何故帰還兵は自殺し続けるのだろうか。
その具体例がこの本に書かれている。
戦争は敵味方の区別なく、人間を破壊し続けるのだ。
この本はDavid Finkel: Thank you for your serviceの全訳である。
最初原題を読んだとき、意味が分からなかった。何の皮肉か?とすら思った。だが、読み終えて、著者は描かれた兵士は勿論、ベトナム戦争や第2次世界大戦で戦った兵士に対しても慰労と感謝の心を抱いているのだと言う事が分かった。
徹底した三人称で書かれている。その視線は客観的で深い洞察に満ち、鑑賞を排し、メランコリーもアイロニーもなく、著者の意見や展望が差し挟まれることもない。淡々と事実と事実だけを繋げ、人物と彼に顕れた現象に迫ってゆく。
主に登場するのはアダム・シューマン、トーソロ・アイアティ、ニック・デニーノ、マイケル・エモリー、ジェームズ・ドスターの5人の兵士とその家族である。
そのうちのひとりは既に戦死している。生き残った者たちは重い精神的ストレスを負っている。
彼らは爆弾の破裂による後遺症と、敵兵を殺したことによる精神的打撃によって自尊心を失い、悪夢を見、怒りを抑えきれず、眠れず、薬物やアルコールに依存し、鬱病を発症し、自傷行為に走り、ついには自殺を考えるようになる。
そうなったのは自分のせいだと彼らは思っている。
自分が弱くて脆いからだと。
いくら周りから「あなたのせいじゃない。戦争のせいなのだ」と言われても、彼らの自責の念と戦争の記憶は薄れることがない。
これは遠いアメリカ合衆国にのみ顕れている現象ではない。
日本でもイラク戦争支援のため、延べ1万人の自衛隊員が派遣された。
2014年4月16日に放送されたNHK「クローズアップ現代」の「イラク派遣 10年の真実」では、イラクから帰還後に28名の自衛隊員が自殺した事を報じた。
自殺に至らなくても、PTSDによる睡眠障碍、ストレス障碍に苦しむ隊員は、全体の1割から3割にのぼるとされている。
非戦闘地帯にいて、戦闘に直接関わらなかった隊員ですらこの様な影響がでているのである。
そしてまた、この本を読んで感じたことだが、日本ではそうした隊員に対する支援のシステムが出来ているとは言い難い。
私たちは戦争の素顔を、余りに知らない。
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