これがエスプリというものか!
ページを捲る度に、感嘆のため息をついた。
副題に「サティによるサティ」とあるように、エリック・サティ自らが、自分を語る作品なのだが、そこは音楽界きっての変人サティ。素直に一筋縄で括れるような語り方はしていない。
例えば批評家を批評するエセーでは、表向き絶賛の嵐のような文章が並んでいるが、ちょっと角度を変えてその文章を読んでみると、それが底意地の悪い皮肉に満ちている事がわかるような仕掛けがしてある。
同様な仕掛けは、各文章殆ど全てに施されており、注意深い読書が促されている。
だがどの文章も、非常に洒落ており、読み進める度に、万華鏡の様に、千変万化するサティの新しい魅力が展開され、堪能することが出来る。
ひとまとまりの文章の切れ目には、サティによるペン画が挿入されているが、これがどれも洒落ているのだ。
本の後半には、サティによる詩と戯曲が載せられている。これがなかなかどうして、良いのだ。
サティに詩や戯曲の才能があったとは、この本を読むまで全く知らずにいた。
エリック・サティの音楽は、これまでも好んで聴いて来たが、その背景にこれ程迄の創造的な世界が展開されていようとは、つゆ知らずに来た。
これからは、全く新しい姿勢と意味合いで、サティの音楽が聴こえて来るに違いない。
尚、表題の卵のように軽やかには、普通Allegrettoと表示されるテンポ記号の代わりに付せられたもの。エリック・サティの手に掛かると楽譜から個性的だ。