21世紀になって、ユートピアを思い描く事を辞めてしまった。
きっかけとして、やはり1991年のソ連の崩壊が大きかった。マルキシズムによる労働者国家の建設は、中学時代からの具体的に実現可能な、ユートピア建設のヴィジョンだった。その歴史上の壮大な実験が、ソ連の崩壊というこれまた歴史上の大きな現実として、冷酷に突き付けられてしまった。私にはそう思えた。大きなショックだった。
ソ連ばかりではなく、他の社会主義陣営の現実も、それまで思い描いて来たユートピアのイメージからは程遠く、「歴史上の壮大な実験」は、事実上失敗に終わった。そうとしか考えられなかった。
なので本書、クリステン・R・ゴトシーの『エブリデイ・ユートピア』も、それ程期待もせずに、図書館から借りて来た。
だが、著者の本気度は、私の貧弱な想像力を遥かに凌いでいた。
彼女は、実際に試みられている、ユートピア建設の実例を、豊富に示している。
これには、正直驚かされた。
世界には、実に多くの人たちが、ユートピアを夢みる事を辞めずに、実現の可能性を探り、そして、実践していたのだ。
世の中は冷笑的な雰囲気に包まれている。ユートピアを語ると、それだけで、お花畑と片付けられ、手酷く打ち捨てられる。私もどちらかと言うと、その雰囲気に負けていた。
だが、こうしてユートピア実現の数多くの実例を示されると、遠い昔に捨て去ってしまっていた思いが、むくむくと蘇ってくるのだ。
まず、夢みることを辞めない。それが肝心なのだ。それはつまり、想像力をフルに働かせるという事だ。現実に縛られる今からその束縛を解き、想像力を思う存分飛翔させる事。そこからしか、ユートピア実現の実践は始まらない。
それは、今の私たちの現実に、疑問符を付けてみるという事でもある。
本書には、その疑問符の実例も豊富に示されている。
読み進めるうちに、私は次第に「その気」になって行くのを感じた。それは意外にも、心地良い解放感を伴う勇気だった。
私はこの本を、現実に敗北し、屈服しまくっている、現在の若者たちに、是非手に取ってもらいたいと願う。
ユートピアは死んではいない。それは十分実現可能なのだ。資本主義の行き詰まりは、もう誰の目にも明らかに進んでいる。もはや、新しいユートピアの建設を、私たちの手で掴み取るしか、未来はない。
必要なのは想像力、勇気、そして決断力。
その事を、本書はそっと私に教えてくれた。
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