六文銭さんの勧めでハンナ・アレントの『人間の条件』を読んだのは、今から9年前、2014年6月の事だった。六文銭さんが送ってくださった読書ノートは簡潔的確にこの本を要約してあり、読書の大きな助けになった。だが志水速雄訳の『人間の条件』は所々意味の分からない日本語になっており、誤訳も多かった。その為この時は仲正昌樹『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』を併読し、補助・指針とした。
この程牧野雅彦訳でハンナ・アレント『人間の条件』の新訳が出版された。私は迷う事なくそれを県立長野図書館にリクエストした。同時に牧野雅彦『精読アレント『人間の条件』』も出版されるという事だったので、それも同時にリクエストした。
両方の本を手にしたのは4月12日の事。今回も同時併読し、昨日28日に読了した。16日間掛かった事になる。
9年の時間差があったとは言うものの、牧野雅彦訳は志水速雄訳とは全く別の本のような感覚があった。それよりも嬉しかったのは、訳の隅々まで明確な日本語が貫かれており、私は牧野雅彦訳で初めてハンナ・アレント『人間の条件』を完全に読破したという実感を得る事が出来た。
前回、志水速雄訳の時は仲正昌樹『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』は必須で、これなくしては『人間の条件』を読み進める事も出来なかった印象があったが、今回の牧野雅彦『精読ハンナ・アレント『人間の条件』』は、的確な要約と溢れんばかりの引用・注釈に満ちてはいるものの、(当然の事ながら)誤訳の修正もなく、同時併読しなくても良かったと思えた。
それよりも役に立ったのは、昨年・一昨年と続けていた岩波『アリストテレス全集』全巻読破だった。
ハンナ・アレントの著作には、古典哲学からの引用が豊富に含まれており、ギリシア哲学の基本的な知識がなかった9年前は、その部分の読解にひどく難渋したのだった。
明確な日本語による訳と精読本、加えて六文銭さんの読書ノートと、最高の読書環境が与えられた今回の『人間の条件』。しかしそこはハンナ・アレントの書く文章だけあって、1回か2回の読解ではとても歯が立たず、4、5回読み返して、更に牧野雅彦『精読アレント『人間の条件』』にある引用でもう2、3回読み返すと言うのが今回の読書スタイルになった。
牧野雅彦訳ハンナ・アレント『人間の条件』は、志水速雄役ばかりではなく、森一郎訳ハンナ・アーレント『活動的生』もフォローされており、読解の大きな助けとなる仕組みになっていた。これを含めて、今後は牧野雅彦訳がハンナ・アレント『人間の条件』の新しいスタンダードになってもらいたいと願うばかりだ。
本の内容はとてもブログの範囲で語り尽くす事は出来ないが、科学技術の進歩は世界大戦の惨禍をもたらす一方で人間の活動領域を地球外にまで拡張し、「観照的生活」が後景に退くと共に「活動的生活」が前景化されると言う歴史の変化があった。これを「労働(labour)」、「仕事(work)」、「行為(action)」の絡み合いの中で人間の「世界からの疎外」がもたらされる様を描き出した論考と言えるのではないだろうか?
牧野雅彦訳でも、ハンナ・アレントの中盤から後半に掛けての迫力に満ちた論考は健在。従来の志水速雄訳でお読みになった方も、そして勿論未読の方にもこの本をお勧めしたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿