亀山郁夫『ショスタコーヴィチー引き裂かれた栄光』
辛辣な題名だが、著者亀山郁夫はショスタコーヴィチに、限りない愛情を込めて、この本を執筆している。
その偏愛の蜘蛛の巣を、払い除けながら読んだ為、非常に時間が掛かった。
私はショスタコーヴィチを好んで聴く方ではない。彼の音楽に付き纏う一種の騒々しさが神経に障るからだ。
だが、にも関わらず、ショスタコーヴィチは常に、気に掛かる存在だった。
本書の中でショスタコーヴィチは革命家の血筋を引き、音楽の才能に恵まれた少年として登場する。
運命は、ここから始まっている。
人民の希望の結晶として始まったロシア革命。そしてソヴィエトロシア。それがどのような経路を歩んだのかは、既に多くの文献で知られている。
その中で芸術家として生きて行く事は、まさにそれ自体が峻厳な綱渡りだっただろう。
ショスタコーヴィチは音楽家として成功し、ソヴィエトロシアに生きる芸術家としても成功している。
どのようにそれがなされたのか?
その具体的な経緯を、本書は忌憚のない筆致で、淡々と暴いて行く。
それは決して、綺麗事では済まされない重く分厚い現実の中のドラマだった。
天才ショスタコーヴィチ。しかし彼はそうした存在である前に、過酷な運命に翻弄される、一市民だったのだ。
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