20241016

カノッサ

 S.ヴァインフルター『カノッサー「屈辱」の中世史」。原書は”CANOSSA-Die Entzauberung der Welt”。世界の脱魔術化と直訳出来るのだろうか?刊行後20年以上を経て尚読み継がれるロングセラーらしい。


カノッサの屈辱はその印象的な呼称と出来事から、高校生以上ならば誰でも記憶している西洋史上の出来事である。

だが、専門家の間では、番狂せ、奇襲、煙幕、茶番と様々な評価が入り乱れ、定説が定まらない出来事であるようだ。

この本は、それらの論争に、決着を付ける為に書かれている。

従来1076年から1077年1月に限られていたカノッサ事件を、その前史、後史を含めて捉えることによって、全体像の把握に成功している。

それだけに登場人物も高校教科書の様に、皇帝ハインリヒ4世と教皇グレゴリウス7世に限られず、彼らを取り巻く様々な人物が入り乱れる。それらの人物相関関係を理解するだけでも困難を感じた。

だが、流石にカノッサ事件の描写は丁寧で、今迄知らなかった事実を数多く理解する事が出来た。

カノッサ事件は、それによって皇帝権を教皇権が凌駕するに至ったと言うような単純な出来事ではなく、その後ハインリヒ4世の逆襲あり、その後を継いだハインリヒ5世による裏切りありと、予想以上にドラマチックな展開を示したようだ。

皇帝と教皇の叙任権闘争は、その諸段階を理解する事が、歴史を素直に理解する上で、重要である事が分かった。

中世史に興味を抱く人にとってこの本は、当に必読の書と言えるだろう。

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