学校教育では、美術では印象派が、文学ではリアリズムが幅を利かせている。19世紀のロシア文学と言えば、レフ・トルストイであり、ドストエフスキーであり、まるでそれ以外のジャンルは、芸術ではないかの如き勢いである。
本書、高橋知之編訳による『19世紀ロシア奇譚集』には、リアリズムの隆盛の影に追いやられ、忘れ去られてしまっていた作品たちが発掘され、収められている。
採り上げられた作家たちも、トゥルゲーネフ以外、全員初めて聞く名前ばかりで、読書も、新鮮な気分で進める事が出来た。
編訳者によると、これらの作品に影響を及ぼした要素として、「フォークロア」「西欧文学(ゴシック小説の受容・クリスマス物語と怪談)」「オカルティズム」があったと言う。
個々の作品に関しては、本書を読んで頂くのが一番だと思うので触れないが、総じて、とても楽しい読書体験になったと言うことは、是非報告させて頂きたいと思う。
どの作品にも、共通して非常に幻想的な雰囲気が通低音の様に響いている。その幻想的な雰囲気こそ、リアリズムが徹底的に排除して来たもの、そのものだと思うのだが、いざ、実際に読んでみると、独特の快感にそそられるものがある。
文学には、こうした「実際にはあり得ない事」を、実感を込めて味わわせてくれるという機能もまた、あったのではないだろうか?
リアリズムにある、重厚長大さこそないが、これらの作品には、巧みなプロットに思わず引き込まれてしまう快感が、十分過ぎる程存在する。
リアリズムを貶めようと言うのでは勿論ない。だが人間の想像力というものを考えた場合、それをリアリズムだけに閉じ込めてしまうのは、余りにも勿体無いと思うのだ。想像力にはリアリズムから思わずはみ出してしまう広大さが、多分あるのだ。
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