先月、1月24日に猛吹雪があった。まるでツルゲーネフの小説に出て来る様な地吹雪で、その荒れ様は、今迄に経験した事がないレベルだった。
その翌日、風呂を沸かそうと思って、風呂釜の点火を試みたのだが、全く点かない。それどころか、風呂釜の内部で、水音らしい雑音が鳴る。これは前日の猛風吹きで、風呂釜が凍ったのだと判断し、ガス屋さんを呼んだ。
どうやら同じ様な用件で、方々から悲鳴が寄せられているらしい。
その時は
「大丈夫です、ひと月と掛かるような事はありません」
との返事だった。
風呂釜の交換が決まった。
その日から、外湯巡りの入浴行脚が始まった。
最初のうちは、方々の温泉や公衆浴場を模索していたのだが、料金の安さと設備の充実振り、そして、浴場の広さという観点から、豊野温泉りんごの湯に、対象は絞られて行った。
長くて2週間という最初の展望は、虚しくも外れ、一昨日になってようやく3月1日に、新しい風呂釜が入るという話が決まった。
今日、2月26日、それが本当なら最後になる筈の、外湯巡りに行って来た。勿論、行ったのはりんごの湯だ。ひと月以上続いた事になる。
朝方は雪が降り、少し積もる様な天候だった。だが、その雪も次第に止み、りんごの湯に向かう頃には、青空も拡がり始めていた。
日曜日という事もあるのか、男湯はかなり混んでいた。(女湯はがら空きだった様だ)。女房殿は、やる事が沢山あると言っていたが、私はそれ程ない。身体を洗って、湯船に浸かるだけだ。
今日は、予てから決めてあったのだが、普段は入らない、露天風呂に浸かってみることにした。外気が浴場に入らないように、露天風呂への扉は二重になっている。その外につながる扉を開けると、外の冷たい寒気が肌を刺した。
案の定、露天風呂も混んでいた。だが入れない程ではない。浸かると身体は暖まり、頭は冷え、なかなか気持ちが良かった。そのうちに、枕のある寝て入る浴場も空き、そこに移動。横になって、空を見上げると、青空に白い雲が浮かび、どことなく春を感じさせる空が見えた。
落ち着いて辺りを見回すと、露天風呂にも時計がある事が分かった。15分を目処に露天風呂に入り、その後、また浴場の湯に浸かろうと決心した。
思えば、ここに通ったひと月余りの間に、色々な事があった。女湯で客が湯船の中で気を失い、救急隊が駆けつけた事もあった。
それらの日々も、過去になり、ここりんごの湯に来なくてはならない日も、今日が最後になる。露天風呂で、空を見上げながら、私はこのひと月余りの事を、どこか懐かしい思い出の様に、思い巡らしていた。
3月からは、家で入浴する日々が復活する。もう、朝からあたふたと入浴の準備に追われる事も無くなるのだ。私たちはもう、入浴難民ではない。それは便利な事。だが、温泉も偶には良いものだ。家で入浴する様になってからも、機会を見つけて、またりんごの湯に入りに来よう。私は密かにそう決めていた。
女房殿は、今日もまた、上がる約束の時間に5分遅れた。
0 件のコメント:
コメントを投稿