20150412

『複雑さを生きる』

安冨歩の本『複雑さを生きる─やわらかな制御』を読んだ。

この本で旅をする世界は非常に広い。だが、主張している事は一貫している。
 世界は複雑系で出来ている。その複雑さを生きる為に必要な事は、頭で考える前に感じなければならないと言うことだ。その感覚を信じ抜いた上で考える事によって初めて私たちは宮沢賢治が言う「因果交流電灯」のひとつとしてたしかに灯り続けることが出来るのだろう。

この本の内容から少し離れるが、ひとはしばしば数学なんて社会に出たら役に立たないと言う。確かに2次方程式を解くと言うような機会は日常生活でそう滅多に訪れるものではない。本当に役に立たないのだろうか?
そうでは無いのではないか。この本を読みながら、ふとそのようなことを考えた。

この本は人間同士の様々なコミュニケーションにまつわる問題を、カオスや複雑系を導入することによって解決可能なものに出来る事を示している。
そればかりかそれは発展の契機となる可能性も示唆している。

それは「知る」という行為についての考察に始まり、コミュニケーションの持つダイナミズムとそれに潜むハラスメントの可能性にどの様に対処してゆくかという問題圏を経て、殆ど訳に立たない計画制御の代替案として「やわらかな制御」を提案し、その果てに現在の資本主義的な市場も関係を断ち切る敵対的なマーケットではなく「物資と情報と人間関係が入り乱れて飛び交う」バザールとして成立していること。それ故に未来に希望を繋ぐことが出来る事を示している。

複雑系を通して世の中を見ると、それは途方も無くダイナミックで柔軟性と躍動感に溢れた魅力的なものとして映る。複雑系は実際に世の中で役に立つ。それを理解するためにも基礎数学を学ぶ価値がある。そう実感することが出来た。

他の本の中で端的に表現されていた幾つかの概念の内実を、私はこの本を読むことでようやく納得する形で理解することが出来た。

安冨歩の思想の核を形成する本のひとつだと思う。

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