20251106

ガザ 欄外の声を求めて

凄いものを読んでしまった。その思いに打ち倒されるように、読後、暫く立ち上がれなかった。


パレスチナのイラストレーター、ジョー・サッコによる漫画である。けれど、これを漫画と呼んでしまうのには、かなり大きな抵抗がある。

それ程軽いものではないからだ。

ジョー・サッコは、その優れた丁寧な筆致によって、ガザが置かれている現状を、他のどんな表現手段を用いるより以上に、リアルに描き出す事に成功している。

それは人物をアップで描いている時(それも極めてリアルなのだが)にも、現れているが、人々を群像として描く時に、驚くべき表現力を発揮している様に思える。

例えばガザの住民を校庭に集めているシーンなどで、遠近法によって、群衆が捉えられるのだが、遠くに坐っている小さな人物像に至るまで、その個性、特徴を、丁寧に描き込む事で、その群衆が、ひとりひとりのパレスチナ人である事を、否応なしに読む者に伝えて来る。

それ故に、その群衆は、イスラエル人によって、個性ある者として扱われず、物の様に扱われている事が、極めて理不尽な現実である事を伝えて来る。そう、10月9日以前から、パレスチナ人はイスラエル人によって、その様に扱われて来たのだ。それが唯一の現実である。

私たちはこの本を読む事で、ガザに於けるジェノサイドが、10月9日の報復によって開始されたのではなく、それよりも遥か以前から、ガザのパレスチナ人が人を人と思わないような扱いをされて来た事を、知る事が出来る。

私たちには、イスラエルがなぜ、パレスチナ人に対し、あれ程酷い事が出来るかを、簡単に想像する事は困難だ。

だがこの本を読む事で、私はようやくそれを理解する事が可能になった様に思う。

イスラエル人は常に、パレスチナ人の生殺与奪の権利を握っていた。今回のジェノサイドは、その権利をちょっと現実的に、実行してみただけの事なのだ。

断言出来る。この漫画本には、何よりもリアルなガザが存在する。