20240623

ロシア文学の教室

著者奈倉有里さんの作品を読むのは、これで3冊目になる。

最初に読んだのは、創元社から出されている「あいだで考える」シリーズの中の1冊、『ことばの白地図を歩くー翻訳と魔法のあいだ』だった。この本は本当に魔法で、ロシア語を学ぶ、学び方を指南する内容だったのだが、その誘い方が巧く、私はその魔法に本当に掛かり、この歳になっても、ロシア語をマスターする事が出来るような気にさせられて、学習を始めてしまった。

次に読んだのは、『夕暮れに夜明けの歌をー文学を探しにロシアに行く』だった。ソ連崩壊直後というタイミングで、ロシア国立ゴーリキー文学大学に学んだ体験談だった。ちなみに奈倉有里さんは日本人で初めてこの大学を卒業した経歴を持っている。

今回選んだのは、出版されたばかりの、『ロシア文学の教室』。


シンプルなロシア文学の紹介かと思っていたのだが、何と青春小説仕立てになっており、子どもの頃から小説を読み始めると没頭して周りが見えなくなる、不器用ながら真っ直ぐな青年、湯浦葵を主人公にして、大学でロシア文学を学ぶ学生と教授のやり取りが描かれている。

勿論、ロシア文学の紹介も、12人の文豪を採り上げて詳しく解説されており、予想は必ずしも間違ってはいなかった。

私は、自分を本好きだと自覚していた。それなりに本を読んで来たという自負もあった。

だが、奈倉有里さんと彼女の描く学生達の言動を読んでみると、その自負は、単なる自惚れだったと分かる。

私は、理系にしては、文学に親しんで来たという程度の存在であり、ちっとも大したことない。大学で文学を学ぼうと集まって来る学生達は、読んで来た本の数も多ければ、読みも深い猛者達であり、私なんぞは到底歯が立たない。

小説で採り上げられている文豪達の、選ばれた作品で、読んだ事があるのは、ドストエフスキーの『白夜』と、ゴンチャロフの『オブローモフ』だけで、他は全くの未読。中には初めて聞く名前の文豪もおり、ロシア文学の層の厚さを、これでもかという程、思い知らされた。

それを読んでの、学生達の感想もどれも鋭く、深く、それに対する枚下教授の受け応えも見事で舌を巻いた。

調べてみると、この作品に採り上げられている小説は、どれもメジャーで、全て図書館で読める事が分かった。

この小説に出て来る小説を、近いうちに全て読んでみたい。読み終えて、私の中にそんな野望が沸々と湧き上がって来るのを抑えられなかった。

ロシア文学の紹介だけでなく、本作は小説としても出来が良い。恋あり友情ありで、物語世界に、思う存分遊ぶ事が出来た。

私は著者奈倉有里さんと、幸福な出逢い方が出来たと感じている。この著者には才能がある。

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