20240402

緋の舟

染色の人間国宝にして、随筆の名手である志村ふくみさんと、最も良心的な作家のひとりである若松英輔さんが往復書簡を交わし合っている。それだけで、内容に深みがある事を期待しないではいられない。


だが私は甘かった様だ。ゆっくりと読み進めるうちに、その手紙たちの深みが、私の予想を遥かに越えたものである事に気が付いた。

お二人は手紙の中で、リルケをそして柳宗悦などを語り合っている。その読みの深さが、私には想像も出来ないレベルで、深いのだ。

往復書簡は1年を費やし、12往復している。春に始まり冬で終わるその手紙たちは、お互いに尊敬し合い、理解し合っている事が、文面に溢れんばかりに横溢している愛情の深さから、察する事が出来る。

美しい本である。その表紙の色合い。途中に織り込まれたカラー写真の美しさはもとより、栞紐の色にまで、気を配って造られている。

その装丁の美しさが、内容の美しさと呼応している。

書を読む者として、この様な美しい本に出逢えるのは、法外な喜びである。

本の終わり付近に、編集者の粋な計らいが添えられている。

「鍵の海」と題されたコラムに、手紙たちの中に現れるキーワードを、原文の引用を含む文献集として纏めてあるのだが、これを読んで、私の力量ではとても読み解けなかった、手紙たちの更なる深みを、ようやく理解する事が出来たのだ。

手紙たちの内容に踏み込むのは、敢えて避けようと思う。その方が、この本をこれから読む方たちにとって、フレッシュな姿勢で、臨む事が出来るだろうと思うからだ。

ひとりでも多くの方と、この本の深みを共有したいと、私は心から望んでいる。

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