20240614

魔の山

トーマス・マン『魔の山』を読み終えた。


今回で5回目になる。内1回は対訳と名打ってある抄訳だったので、完全に通読したのは正確には4回目だ。高橋義孝訳を選んだ。これが現在のところ最も新しい訳だからだ。これに加えて、原書、Thomas Mann “Der Zauberberg”を併読した。結果としては、これが功を奏したと思う。


長編である。だが今回通読して、感じたのは、これだけの長編でありながら、無駄が全く無いという事だった。巨大で純粋な結晶の様に、混ざり物を全く感じない作品だった。


今迄読んだ時には、主人公ハンス・カストルプにどうしても魅力を感じられず、感情移入出来ない事を強く感じていたが、今回は、苦手意識はやはりあるものの、それに捉われる事があまりなく、それを補って余りある、周辺を固める登場人物の魅力を味わう事が出来、するすると読み進める事が出来た。

病というものが、人間とその精神にいかなる作用を与えるのか?一言で言えば、これがこの小説のテーマだと思う。

それに加えて、執筆時に晴天の霹靂の様に勃発した、第一次世界大戦の影響が、この作品には色濃く現れている。

トーマス・マンは、極め付けで美しい「雪」の章の後、小説を続けてしまった事を、「構造的欠陥」と表現しているが、私はそうとは感じなかった。むしろ「雪」以降の展開が、『魔の山』という作品に、深みを与え、魅力になっている。そう感じた。

読んでいて、「面白い!」と思わず声を挙げてしまった程だ。

久し振りに、小説らしい小説を読破した。読み終えて、一人言い知れぬ感動に酔いしれた。満足している。

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