このブログで、本を扱う時は、その本を読んで貰いたいと願いながら書いている。しかし、今回採り上げるシドハース・カーラの『性的人身取引ー現代奴隷制というビジネスの内側』程、是が非でも読んで欲しいと願った事は、今迄に無かった。
読んで、気持ちが良くなる本ではない。むしろ現実の惨さに、思わず目を背けたくなるような内容だ。実際、私もこの本を読み始めて、一度、どうしても読み続ける事が出来なくなった。挫折したのだ。
今回意を決して読了に迄漕ぎ着ける事が出来た。この本を読むには、心の準備が必要だ。
著者シドハース・カーラは、世界中の現場に身を挺して飛び込み、危険を犯しつつ取材する事によって、セックスワークに携わる少女たちが、現代に蔓延る奴隷状態の中に投げ込まれた存在である事を明かにしている。
本書は、世界各国の実例を引きながら、その現代奴隷制がどの様に営まれているかを記述している。読んでいて気付くのは、少女たちをセックスワークに引き摺り込む手口が、世界のどの地域でも、まるで収斂進化を見ているように、相似形を成していると言う事実だ。
貧困に喘いでいる少女たちがそこから抜け出そうともがく、その意図に付け込んで、騙し、脅し、辱める事によって、セックスワークから抜け出せない様にする。
その手口は巧妙でまるで蜘蛛の巣の様に少女たちを絡め取って行く。
読んでいて、怒りと恐怖で、身体が震え出すのを、私は抑えられなかった。
この本の優れた点のひとつは、その現代奴隷制をなくす為の政治的な枠組みを、懇切丁寧に提案している事だ。少ないリスクと過大な需要がある。だから現代奴隷制は無くならない。ならばリスクを高め、需要を抑える方向に、社会の仕組みを作ってゆけば良い。
簡単に纏めるとそう言う事になるのだろうが、それを現実に実践して行く為の方策を、著者は丁寧に、そして説得力を持って、提案している。
その部分を含めて、やはりより多くの人に、この本を読んで貰いたいと願って止まない。
先ず現実を知る事。それに敗北しない事。全てはそこからしか出発出来ないだろう。