20190110

『海街diary』完結

動揺した。

郵便が届いたのは昨日(9日)の夕刻のこと。折からドストエフスキーの『悪霊』に浸りきっており、丁度佳境を迎えつつあったので、そのままそれを読み続け、章の切れ目あたりで『海街diary』を読もうと決めていた。
しかし、梱包を開け、中の本を取り出した時、目に飛び込んで来た文字に釘付けになった。

「完結!!」

写真を見れば分かる通り、『海街diary9─行ってくる』の帯には、確かにそう書いてあった。
その文字に意味を見いだすのに、少し時間が掛かった。

遂にこの日を迎えてしまったのだ。意味を理解しても、実感が伴うには、更に時間が必要だった。
終わるのなら前の巻でも良かったのではないか?
そんな思いが胸をよぎった。

吉田秋生さんはいつも、安定したストーリーテラーだった。けれど、万が一と言う事がある。引き摺って、蛇足を描いてしまうのではないか。その事が怖かった。

慌てて『悪霊』を机の上に放り出し、『海街diary9』を手に取った。
夢中で読んだ。

杞憂だった。

吉田秋生さんはこの作品を、きちんと終わらせていた。

見事だ。


連載開始から12年が経つと言う。
長い時間だ。

けれど、私は初めて『海街diary』を目にした時の感動を、昨日の事のように覚えている。

衝撃的だった。

物語は巻を重ねるにつれ深みを増していった。

本棚の一番上、天井に届くばかりの場所に、全ての巻が置かれている。
そのひとつひとつに深い思い出がある。

背表紙だけで内容を思い浮かべる事が出来る。

12年。私の傍らにはいつも『海街diary』があった。

新しい巻が出版され、それを買い、読み終える頃、いつも、次はどうなるかが気に掛かった。

その「次」がもうない。

一抹の寂しさは隠せない。けれどそれを補う清々しさが心を占めている。

登場人物は皆、驚く程成長し、それぞれの道に旅立ったのだ。

物語の終わりに、私は精一杯の言祝ぎを贈りたい思いだ。

おめでとう。ありがとう。


『海街diary9─行ってくる』を読んでいる最中。
Twitterに兼高かおるさんが逝去されたという報せが流れた。
90歳だったという。

確実に、ひとつの時代が終わったのだ。
その事を胸に刻んだ。

天井に近い本棚の一番上に、『海街diary9─行ってくる』を、そっとしまい込んだ。

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