20200310

『ふれる社会学』

現代的なテーマを扱った社会学の教科書として書かれた本であるようだ。だが、社会学徒ではない私でも、充分愉しく、読み、学ぶことが出来た。

実にいろいろなものにふれている。スマホ、飯テロ、就活、労働等々。
それらはひとつひとつ深めたらどれも、1冊の本にする事が可能なテーマだ。

だがどのテーマも、軽くは扱われていない。鋭い切り口で切り取られ、
かなり深く掘り下げられている。

日常のともすれば個人的な事柄と扱われてしまいそうなテーマも、社会学的に見るとどうなるかが、首尾一貫した視点として、貫かれている。

「はじめに」にはこうある。

本書の14のテーマをつうじてあなたに伝えたいことはいたってシンプルだ。それは、わたしたちの日々のふるまいや考え方が、社会の影響から「自由」ではないこと、そして、わたしたちのふるまいや考え方が、社会を作り、社会そのものを変えていく、ということだ。

この本が教科書である事は、各テーマの終わりに「研究のコトハジメ」というコラムが付けられていることで、分かる。
テーマに取り掛かり、膨らませるコツが伝授されていると言う訳だ。

更に、巻末には「コトハジメるコツ」という5つの記事が付けられている。そこにはノートの取り方、フィールドノートの書き方など、精神論や個人のセンスや整理能力の有無などに帰されることが多い、研究の基礎的なコツが記されている。
教科書として、かなり親切な造りになっているのだ。


個人的には、飯テロの章が取り分け面白く読めた。
飯テロというのは、twitter等で、唐突に襲ってくる、美味しそうなご飯やスイーツの記事や写真を指すが、今まで、私はこれを迷惑な行為としてしか受け取っていなかった。だがこの飯テロを社会的な営為として捉えれば、個食からの脱却や知らなかった食材への興味などに繋げることが出来る。
これを読んでようやく私は飯テロを「愉しむ」ことが出来るようになった。
新しい世界を切り拓いて貰えた訳だ。

テーマの中には、ハーフや差別感情等、深刻になり勝ちなものもある。けれどそうしたテーマに対しても、著者らの冷静な筆致は崩れていない。徒に暗くならずに、あくまでも社会的な視野の元に、纏めている。


twitterでの報告によると、この本を実際に教科書として採用する大学も出て来たようだ。
この本ならば、学生も社会学に興味を抱くことが出来るだろう。実際の教育の場で、この本が生かされることを期待したい。

この本の双生児として、Webでも、「オンラインでふれる社会学」が公開されている。こちらも是非読んで貰いたい。

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