20200306

『災害と復興の中世史』

もうすぐあれから9年になる。
この本は東日本大震災から語り起こされているのだ。

舞台はヨーロッパ中世後期だ。数限りない災害が起きた。その中から洪水、地震、飢餓など9つの災害を取り上げ、そこから人びとがどのように生き延び、災害を乗り越えてきたかが描かれている。

著者は災害を〈人間の環境(コンディティオ・フマーナconditio humana〉の中心にあると位置付けている。

災害とは、とどめることのできない突然の暴力が日常生活に乱入してくることであり、無知であることを根本的に許さないものであり、そして人間の歴史が大地の歴史のほんの一部にすぎないということを見せつけるものだろう。

私たちは著者のこの見解に、思わず頷いてしまうだろう。

中でも、ヨーロッパの中世を実質的に終わらせた、ペスト大流行を中心とした疫病の章は、新型コロナウィルスが拡散しつつある今、他人事とはとても思えない迫力を持って、迫ってきた。

ヨーロッパ中世の人びとは、現在の私たちとは比べものにならないくらい、疫病に対して、無力だった。ペストに襲われることは、即ち死を意味すると言って構わない程の出来事だったのだ。

表紙にピーテル・ブリューゲルの『死の勝利』が使われていることは、無意味なことではない。

それでも、ヨーロッパ中世の人びとは、何とか生き延びた。そして、新しい歴史をそこから築き上げても来たのだ。

その事を思うと、私は言い知れぬ感動を覚える。

災害の歴史は、その研究が始められたばかりだ。
もちろん史料の発見、収集、整理、そして史料批判に手間が掛かるという点のみならず、災害概念の広さ、学際的な必要性からも、こうした研究の難しさが見て取れる。

しかし、災害が意味するものの重要性が理解されればされる程、この分野は発展してゆく事だろう。

この本は、そうした災害史の入門として、まさに最適と言い得る、深さと広さを兼ね備えている。

良い本に出会った。

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