20200517

ダイナソー・ブルース

大して期待せずに図書館から借りてきた。

どうせ巨大隕石衝突が語られ、それによって引き起こされた暗く、長い冬が恐竜たちを飢餓に晒し、絶滅に追い込んだとされる、「例の理論」が紹介されるのだろうと。

しかしこの本『ダイナソー・ブルース─恐竜絶滅の謎と科学者たちの戦い』に描かれていたのは、想像を遙かに超える物語だった。

恐竜絶滅に関しては、無関心である事が出来ず、それなりに調べて来た。なので、もう重要な事に関しては、新たに知る事は残っていないと思っていたのだ。

甘かった。この本に書かれていた事は、知らない事だらけだった。

どんな理論でも、新たに登場してきた時は、大抵多くの懐疑の念に晒される。
恐竜絶滅に関する巨大隕石衝突説もまた、多くの反対意見に晒された。

しかし、丹念な研究の積み重ねにより、徐々に賛同者を獲得して来た。

だが、この理論が主流になってゆくのは、思っていたより遙かに紆余曲折を経たものだったのだ。

幾ら主流になった理論でも、強硬な反対者は尽きない。

学者たちも人間である。

学会を舞台に繰り広げられる戦いは、双方の意地と威信を賭けた、激しいものだった。

反対者たちの研究もまた、一理も二理もあるものだった。その主張は、それなりに説得力を持ち、主流になった理論を窮地に追い込む事すらあったのだ。

また、反対者の主張により、理論がより詳細な強固なものに鍛えられた面もあった。

この本は、その戦いの始終を、丹念に調べ上げ、スリリングでエキサイティングな、見事な人間ドラマに仕上げている。

著者尾上哲治さんは自らも層序学、古生物学の学者として研究生活を営んでいる。当然、自分の主張も持っている。

彼は、この本で天体衝突による絶滅の新しい理論を提示している。

これは思い切った決断だっただろう。

確かにこの本は、本格的サイエンス・ノンフィクションだ。
面白かった。

チチュルブ天体衝突と殆ど同時に、デカン火山活動で膨大な洪水玄武岩が噴出された事。
チチュルブ・クレーターがアラン・ヒルデブランドによって「再発見」される遙か以前に、既に発見されていた事などは、この本で初めて知った。

シニョール・リップス効果などという用語は、今迄聞いた事もなかった。

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