20200512

プリズン・サークル

9日に再開したばかりの長野相生座・ロキシーに行ってみた。
プレミアム会員券を更新しなければならなかったし、何よりも映画館で映画を観たかったのだ。
新型コロナウィルス感染防止のために、マスクは必須。入口に消毒液が置かれ、座席も2つ置きに坐るように張り紙が貼られていた。

選んだのは取材許可が下りる迄に6年を費やし、2年間掛けて撮影された、坂上香監督のドキュメンタリー『プリズン・サークル』。日本の刑務所にカメラが入ったのは、この映画が初めての事だという。

島根あさひ社会復帰センターは、2008年に開設された、官民協働型の先端的な男子刑務所である。指導や生活管理は公務員である刑務官が行うが、警備や清掃、職業訓練などの多くを民間が担っている。
ドアの施錠や収容棟への食事搬送は自動化され、ICタグやCCTVカメラで監視された受刑者は、所内の独歩が許されている。

しかし、この刑務所の本当の新しさは「TC(Therapeutic Community=回復共同体)という教育プログラムを進める日本で唯一の刑務所であるという点にある。
「TCユニット」と名付けられた教育プログラムは「サークル」と呼ばれる円座での対話によって、受刑者たちが犯罪の原因を探り、問題の対処法を身に付けることを目指す。
運営するのは心理や福祉などの専門的な知識を持つ「支援員」と呼ばれる民間職員だ。

参加出来るのは、希望者の中から条件を満たした40名前後の者のみ。彼らは半年から2年程度、このユニットに在籍し、寝食や作業を共にしながら、週12時間程度のプログラムを受ける。
TCは1クールが3ヶ月。クール毎に新規生が加わる。

映画はその参加者の中から拓也(当然仮名。以後も同じ)、真人、翔、健太郎、それに出所者たちにスポットを当て、TCの実際が紹介されてゆく構成を取っている。

そこで受刑者たちは幼少年期を振り返り、加害者と被害者双方の立場に立って犯罪を振り返り、時にロールプレイを試みながら、自分と自分が成した事を見つめ直す。

映画の中で、回想シーンなどに若見ありさによる、砂絵のアニメーションが効果的に使われている。
モノトーンで描かれて行く、それらのアニメーションは、受刑者たちの置かれていた幼少年期を、具体的に復元し、彼らが実は私たちとそれ程違いがない者たちである事を伝える。
最期に「生きたい」という願いに到達した受刑者が、創作した物語を描く時、アニメーションはついに色彩を持つ。
それは処罰から回復へと、今、日本の刑務所が変わろうとしているその事を、如実に象徴していたように、私には感じられた。

まだ数が少なく、一概には比較出来ないが、TCを受けた受刑者たちの再犯率の低さは特に指摘しておく必要があるだろう。

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