20180507

映画『海街diary』

毎年この時期になると、映画を見始める。今日も映画館に行くつもりだったが、あいにくの雨となってしまって、録り溜めておいたBlu-rayの中から、『海街diary』を選んだ。

この映画を録画出来たときは、とても嬉しかった。原作をとても愉しく読み続けている最中だからだ。
この映画は2015年6月に公開されている。当初、映画館で観るつもりでいたのだが、何故か気が乗らず、見逃してしまっていた。NHK・BSに降りてきた時は、思わず「やった!」と声を上げてしまった程だ。

けれど映画を見始めて少し経った頃から、原作を知っていることが良かったのか悪かったのか、とその事が気になって仕方がなくなってしまった。

原作が良すぎるのだ。その原作を名手是枝裕和監督が、映画としてどの様に再現してくれるのだろう?とそのことばかりに興味を抱いてしまった。余り良い観方ではない。


 鎌倉で暮らす3姉妹の元に、15年前に出奔し、以後連絡もなかった父親が、山形で亡くなったという報せが入る。

葬式は鰍沢温泉という途方もない田舎。そこで、父が残した腹違いの妹中学生のすずと出会う。

しっかり者同士という点で、すずと通じ合うものを感じていた長女幸は、帰る寸前、すずに、一緒に住まないかと提案する。
すずも迷うことなく、その提案を承諾する。

こうして3姉妹は4姉妹となって、ぶつかり合うこともあるけれど、大抵の場合穏やかで、固い結束の下、鎌倉での淡々とした日常生活が始まって行く。

映画はその淡々とした日常生活を、こまやかなタッチで描いて行く。

しかし、映画は原作に追い付いてはいないと感じてしまった。

例えば、鰍沢温泉で、父の面倒を見てくれたのはすずだと見抜いた幸が、すずに、一番好
きな場所に連れて行ってくれと申し出、すずが父親と何度も来た、小高い丘(どこか鎌倉に似ている)に連れて行くシーンでは、原作で、感極まったすずが激しく泣き出し、それを蟬時雨が消すように降り注ぐ名場面があるのだが、映画ではそれがカットされ、涙ぐむ程度の演出として処理されてしまっていた。あれではすずが3姉妹に、心を開く切っ掛けとして乏しく、物語として物足りないものになってしまっている。

原作を読んだとき、この場面は漫画でなければ表現出来まいと、感動したのだが、やはり漫画でないと無理だったのだろうか?何とか格闘して欲しかった。

このように、全体として映画は原作に輪を掛けて、起伏に乏しく、感情移入しにくいものになってしまっている。

未だに連載中で終わっていない原作から、1年を切り取ったのは正解だったと思う。そして、主題を幸がすずに対して言う言葉「あなたはここにいていいんだよ」に絞ったのも悪くない選択だったと思う。けれどその主題に至る筈の様々なエピソードが 、十分主題に収斂せずに、流れてしまったのは、この映画の大きな弱点になっていると思う。これは原作の優れたストーリーに引き摺られたのだと思うのだが、エピソードをもっと刈り込んで、取捨選択しても良かったのではないだろうか。


だが、すずが入ったサッカーチームで花火を見に行く場面など、映画独自の名シーンもあり、映画はとても美しい。
また、4姉妹を囲む、脇役も名役者を揃えてがっちりと固めてあり、そこも見所になっている。

鎌倉は、私にとってもとても縁が深い思い出の場所であり、その風景は、やはり途方もなく美しい。その事をこの映画を観て感じさせられた。とは言え、映画は鎌倉の美しさに寄りかかってばかりはいない。
やはり是枝監督は名手であり、映画作りがとても巧い。その事も感じさせられた。

カンヌでは受賞を逃したものの、映画が終わったときにはスタンディングオベーションが起きたと言う。
奥行きが深い、しっとりとした作品であり、佳品となっている事は間違いないだろう。

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